生きるのが面倒くさいと思ってしまう原因はどこにある?~生きるのが面倒くさい人-回避性パーソナリティ障害~
今目の前にある時間をもっと大切に使いたいと思う。これは自分の人生なのだから。自分の好きに使っていい、自分のための時間なのだから。 そう思えたとき、あれほど自分を重く覆っていた面倒くささなど、どこにもなくなっていることに気づくだろう。 そのためには、自分が決めた自分の人生を生きようと決意すること。そして、一歩だけ踏み出してみること。それだけでいいのだ。
今回は、精神科医である岡田尊司先生の「生きることが面倒くさい人」をご紹介いたします。岡田先生の自分自身の「生きることが面倒くさい」という経験、様々なクライエントと向かい合ってきた臨床経験から、「生きることが面倒くさい」状態から抜け出すためのアイデアが数多く盛り込まれています。
「面倒くさい」を避けても「楽しい」を増やすことができない。
不登校やひきこもりの増加、非婚率の増加や恋愛をしない若者、セックスレスのカップルの増加には、さまざまな要因がかかわっていて単純に論じることはできないが、社会との接触や責任が増えることに対して、負担を感じ、なにもかも面倒くさく思えて、そこから逃れようとする一面もかかわっている。それは、多くの人が感じたことがあるのではないだろうか。
内心でやってみたい気持ちもあるのだが、いざやるとなると一歩踏み出せない。前途有望な若者なのに、まるで老い先短い老人のように、守りに入った生き方をしてしまう。そんな傾向を示す人が、増えているのである
生きるのが面倒くさい状態を考える場合、死んでしまいたいというほど切羽詰まってはいないが、せっかくの人生を、生きながら降りてしまっているような生き方をしてしまう
著者は、現代の日本社会で、「面倒くさい」という理由から、「老い先短い老人のように、守りに入った生き方をしてしまう」人たちが増えていると主張しています。 「面倒くさい」ことを避け、代わりに「楽しい」ことを増やし、生きていくことができるのであれば、それはいたって健全で精神的にも豊かな人生になるのでしょう。
しかし、著者が本書で指摘するように、「面倒くさい」ことを避けても、「楽しい」ことを生活の中に見つけ出すことができなければ、「生きること」そのものが面倒なものとなってしまい、精神衛生的にもよくない生活を送り続けることになってしまうのかもしれません。
「面倒くさい」の3つの要因
「面倒臭い」の背景にある3つのパーソナリティ
自己愛性パーソナリティ
完璧で理想的な自分や華々しい人生を望み、それ以外の不完全な自分や平凡な人生なら、生きるに値しないと考えてしまう傾向だ。完璧な理想にとらわれ、自分が特別でなければ満足できない傾向は、「自己愛性」と呼ばれる
境界性パーソナリティ
生まれてきたことや自分が存在すること自体に意味や価値を見出すことができず、虚しさや絶望に陥ってしまう傾向だ。自己否定を抱え、自分は誰からも愛されないと思い、自己破壊的な行動をとってしまう傾向は、「境界性」と呼ばれる
回避性パーソナリティ
生きることに伴う苦痛や面倒ごとから逃れようとする傾向で、もっとも本来的な意味で、「面倒くさい」心理が病理の根本にある状態だ。人の世の煩わしさから逃れたいという願望をもち、現実の課題を避けようとする傾向を「回避性」という
「面倒くさい」の背景にあるとしているのが、「自己愛性」「境界性」「回避性」といったパーソナリティです。これらの、パーソナリティは、その特徴が強すぎることで社会生活に支障がでている場合、精神医学ではパーソナリティ障害と診断されることがあります。
しかし、以上のようなパーソナリティは誰しも持ち合わせているもので、決して特別異常とされるようなものではありません。 自身の生活の中における「面倒くさい」を見つめ直すと、自分はどのパーソナリティ傾向が強いのか理解すると、「面倒くさい」を「楽しい」に変化させる方法を見つける一助になるかもしれません。
回避性パーソナリティの「面倒くさい」の根源はどこにある?
赤ん坊の中には、生きる気力をなくしたように、お乳を吸おうともせず、歩こうともせず、周囲にも無関心になり、ただ同じ行動を無意味に繰り返したり、ときには、自分を傷つけようとしたり、病気にも無抵抗になり、やがて衰弱して死んでしまう子もいる
生きることに意欲を失ってしまった赤ん坊に何が起きたのかと言えば、母親から離されて施設に入れられたり、母親に世話をしてもらえず、放っておかれたりしたのである。つまり、いわゆる虐待やネグレクトを、ごく幼いうちに受けた子どもには、生きるのが面倒くさくなったとしか思えない状態が認められるのである。
恐れ・回避型愛着スタイルは、自分に対しても他者に対しても否定的なイメージを抱き、自分のような嫌われ者は、冷たい他人が優しくしてくれるはずがないと思い込み、本当は愛されたいのだが、冷たい仕打ちが返ってくるのが怖くて、相手に近寄ることができないというジレンマを特徴とする。
先ほど、「面倒くさい」の背景には、「自己愛性」「境界性」「回避性」の3つの要因が考えられるという著者の考えを紹介しましたが、この本は主に「回避性」という観点を中心に「なぜ面倒くさいとなるのか」「面倒くさいと思う傾向が強くなった原因はなにか」などを解説しています。
回避性パーソナリティの「面倒くさい」の背景には、何らかの行動を起こすことに対する「不安感」や「自分自身の自信のなさ」があるとしており、愛着スタイルの一つである「恐れ・回避型」が根底にあると主張しています。 この愛着スタイルは、幼少期に養育者との「かかわり」がどのようなものであったかによって、決定されるものと考えられています。
「恐れ・回避型」は、「人嫌いでありながら、他人の反応が気になり傷つきやすい」ことが特徴で、幼少期に親から否定的な言葉を浴びせられたり、助けを求めた時に親が手を差し伸べてくれなかったりといった経験から形成されるものと考えられています。 現代の日本では、両親が共に働き、子どもとかかわりを持つ時間が短くなっていたり、離婚によってシングルマザー/シングルファザーが増えていることからも、安定した愛着スタイルを形成することが困難になってきているのかもしれません。
まとめ
この本では、回避性の人がどのように生活の中の「面倒くささ」を解消し、「楽しさ」を増やしていくか、著者の臨床経験も踏まえた解決方法がいろいろ紹介されています。
こうした状態は改善することができるし、完全に克服して、前向きで積極的な生き方に変わるケースもある。では、どうすれば、今陥っている、何事も面倒に感じてしまい、動きたくても動けない状況を脱することができるのか。 具体的なケースをみていきながら、改善と克服のポイントを考えていこう
今目の前にある時間をもっと大切に使いたいと思う。これは自分の人生なのだから。自分の好きに使っていい、自分のための時間なのだから。 そう思えたとき、あれほど自分を重く覆っていた面倒くささなど、どこにもなくなっていることに気づくだろう。 そのためには、自分が決めた自分の人生を生きようと決意すること。そして、一歩だけ踏み出してみること。それだけでいいのだ。
「何もかも面倒くさい、そんな自分をなんとかしたい」そんな思いを抱えている方には、ぜひ一読いただきたいと思える本です。
本の目次
- 第1章 生きるとは面倒くさいことばかり
- 第2章 回避性パーソナリティ障害とは
- 第3章 回避性パーソナリティと回避型愛着
- 第4章 「傷つきたくない」性格はなぜ生まれるのか
- 第5章 回避を強める現代人-適応か進化か?
- 第6章 回避性の人とうまく付き合う方法
- 第7章 回避性が楽になるライフスタイル
- 第8章 恥や恐れを気にせず自由に生きる方法